久しぶりに妻の実家を訪れた。私の興味は、以前より飼っている猫のトラと、最近居ついた迷い猫のミーコがどうしているかだったが、驚いたことに、ミーコは新参者にもかかわらず、この家の主役の座をがっちりと勝ち取って、トラを追い出してしまっていた。
私と妻が車で庭に入ると、納屋の前にいたトラが一目散に車に向かってニャアニャア鳴きながら、駆け寄ってきた。車を降りた妻が抱き上げて、「トラ、元気だった？トラの好きな乾燥かまぼこを買ってきてあげたよ」というと、更に甘えるようにニャーゴニャーゴと鳴く。妻がトラを抱いたまま家に入り、乾燥かまぼこを与えると、うれしそうに食べ始めた。
その時だ。家の奥のほうから脱兎のごとくミーコが飛び出してきて、無防備なトラに飛び掛ったのだ。不意を突かれたトラは、あわてて外へ避難した。そのトラに対し、勝ち誇ったように玄関口で仁王立ちになったミーコ。妻が「こら、ミーコ。お前は後から来たのだから、トラにそんなことすると許さないよ」と声を荒げたのだが、この猫、なかなか世渡りがうまくて、馬門ばあちゃんの膝の上に逃げ込んで助けを求めるように丸くなったのだ。馬門ばあちゃんがミーコをしっかりと抱きしめながら「そんなに怒んなよ。トラが弱いんだがらショウガアンメ」とミーコをかばうのだった。馬門ばあちゃんにすれば、妻になついでいるトラより、助けを求めてくるミーコのほうが可愛いのは当然だ。「迷い猫ミーコ」は今やすっかり「家猫 石川ミーコ」になってしまっていた。