妻からの電話。泣いている。「お父さん、トラが死んじゃった。交通事故。今、埋めているの」一瞬、耳を疑った。絶句。気を取り直して、冷静さを装いながら応えた。「会議があるから、すぐにはいけないけど」。「大丈夫」妻はそれだけ言って電話を切った。
事故の現場は、家から随分離れた国道上で、そんな所までトラが遠征していたとは今まで全く気付かなかった。午後２時のころ、実家に向かう妻が、道路に横たわって即死状態のトラを発見した。黄色の首輪ですぐにわかったという。亡きがらは雨にぬれていたが、損傷はひかれた頭部の部分だけであった。
昨日は、帰る妻を追いかけてきて足元に寄り添い、甘えるように抱っこをねだり、妻が抱き上げてやるとうれしそうに目を細め、喉を鳴らして、顔を妻の喉に押し付けたという。
「こんなことになるんだったら、もっと、抱いてあげればよかった」と、妻は泣きじゃくって後悔した。でも、ひかれたトラは、結局、妻に発見され亡きがらを引き取られたわけで、妻とトラは最後まで不思議な縁でつながっていたのだ。
トラの遺体は、家の前の畑の隅に埋められた。妻は盛られた土の横に、竹の棒を差して立てた。夕方、駆けつけた私と妻と馬門ばあちゃんとミーコで、トラのお墓に線香をあげて、お酒をかけてあげた。馬門ばあちゃんが「トラは酒も飲んだもんな」というと、また、妻がしゃくりあげるように泣く。そばでミーコも、ニャアと悲しげに鳴いた。