不良少年、暴れん坊の「とら」ではあるが、まだまだ、このあたりの
ボスにはなれないらしい。その証拠に、時折生傷を負って帰ってくる。
天下を取るにはまだ力不足だ。一度、とらの頭に引っかき傷があり、
血が出ていたので、母がかわいそうに思いヨードチンキを垂らして
やったが、それがかなり傷口に染みたらしく、とらは悶絶して痛がり
転げ回った。それ以来、とらはあまり母に近寄らない。
私の目から見ると、とらが本当に好きなのは、うるさくかまいたがる
母よりも妻のような気がする。理由はいくつかある。

一つは、とらをもらいに行ったときに袋に入れてきたのだが、
そのとき車の助手席でとらを抱いていたのが妻であり、不安を与え
ないように優しく声をかけていたのも妻であった。たぶん、とらは
袋の中で、この人が新しいご主人様だなと思ったのだろう。

二つ目は、とらの好物は「かまぼこ」なのだが、それを買ってきて
くれるのが妻であることを、とらはよくわかっている。
家内の車が来ると、家の中から元気に
飛び出してきて妻を迎える。妻も車を降りてとらを抱きしめ、自分
の車に乗せて数メートル走ってやる。すると、とらはとても満足そう
にうっとりする。一度、私が一人で妻の車で行った時は、元気よく
迎えに出てきたが、運転席から降りてきた私を見て「ちがうにゃー」
と二度鳴いて、くるりと向きを変えて家に入ってしまった。
妻が台所に入るととらはその後についていき、妻の後ろで「にゃぁ、
にゃあ」と、かまぼこの催促をする。スーパーで半値で買った賞味
期限間近のかまぼこを切って与えると、「うまいにゃー」と言いな
がら食べている。銘柄は「紀文」が好きなようである。（つづく）