「とら」にも苦手なものがある。
一つはツインリンクもてぎの花火だ。妻の実家はツインリンクもてぎの
すぐそばで、花火がよく見える。８月１４日の夜は、みんなで庭に出て
花火を見ることを恒例としている。
初めての花火の夜、とらも外に連れ出したのだが、夜空に「どーん」と
上がった花火を見て、とらはびっくり仰天。全速力で家に駆け入り、
部屋の片隅でぶるぶる震えてしまったのである。とらには、鳥やチョウ
やトンボや飛行機までは理解できるが、大きな音を出しながら夜空に
広がる物は理解できないようである。
今年の花火の時も、みんなの盛り上がりをよそに一人（一匹）部屋で
テレビを見ていた。

もう一つ苦手なものは、妻の妹夫婦が時折連れてくるミニチュア
ダックスの「チー」である。初めての出合いは今年の春であったが、
縁側で春の日差しを浴びてうつらうつらと昼寝をしていたとらに、
「お友だちになりたいワン」とそっと近づいていった「チー」は、
とらの顔をペロリとなめた。寝ぼけまなこで「なんだにゃー」と
目を開け、目の前でしっぽを振るダックスのチーの顔を見たとらは、
「ギャーン」と叫んで、全身の毛を逆立てて飛び上がり家の中を逃げ
回った。完全にパニック状態に陥ったとらは、その日家を飛び出して
行ったきり２日間戻らなかった。とらにとってチーとの出合いは
「未知なるものとの遭遇」であった。
その後も二人の間はしっくりいかない。いまだにチーが来るととらは
家になかなか入ろうとしない。チーが囲いの中に入っているのを確認
してから家に入ってきて妻に「かまぼこ」をねだるのである。
（つづく）